Manual Medicine 大場 弘 Blog 

マニュアルメディスン(徒手医学療法)は全身をトータルに捉え身体の連関性を追求する医学です。
ここではマニュアルメディスンによる治療法や、症例などをご紹介していきたいと思います。

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精神科医 神田橋條治先生の質問会(21.09.12)
 

気づきのための補助線

このところ何かと重なることがあって参加できなかった神田橋先生の勉強会に久しぶりに出席してきました。神田橋先生には患者さんをご紹介いただくことがあり、ご挨拶をしなくてはと思っていたのですが、“久しぶりだね、患者さん何人か行ったと思うけどみんな喜んでいるよ”と神田橋先生の方から声を掛けていただきました。先をとられてしまったようで、こちらはただ頭を下げるだけになってしまいました。

 

今回、私は質問を出していなかったので、後ろの席で余裕をもって全体を眺めるような気分で参加させてもらいました。神田橋先生のお話は、ジグソーパズルのように参加者の質問を組み立てて、ある一つのまとまった語りにしてしまうような印象を持ちました。バックグランドに精神分析の自由連想法のようなことがあるからでしょうか、参加者のさまざまな質問からそこに大きな意味を描き出しているように思えました。

 

冒頭、幾何学の問題を解くときに補助線を引くことで解答につながるように、患者さんの訴えにもまずそうした補助線になるようなことを探りなさいと話されたのです。

 

患者さんをよく観察せずにただ抽象的な概念や理論に基づいて治療をおこなうことは、実際の臨床の場面では多大な負担を患者さんに強いることが少なくありません。これは私たちの徒手療法の世界だけでなく、歯科の咬合治療を見てもそうです。流行の理論で治療されたことで、苦痛を背負わされた患者さんがどれだけいることか・・、(でも、歯医者さんが悪いわけでもないのですが)。精神療法の世界でも、頭でっかちで患者に接してはいけないと、神田橋先生は指摘されてきました。患者さんの苦痛を自分の知っている知識や理論に短絡的に押し込んではいけないことになるのでしょうが、それではどうしたらいいのかとなってしまうのです。神田橋先生の話される補助線をどのように見いだしたらいいのでしょうか。

 

神田橋先生は、治療家は素人さがなくなってはいけないと言います。素人の感覚で患者さんに接することが大事だと言うのです。患者さんに接して自らのうちに湧いてくる想いや感情を素直に受けとめることから始まるというのです。

患者さんに、“今、話を聞いていてこうなふうに思ったのですが”と治療家が伝えたとします。すると患者さんは、“そうゆうことを言っているのではなくて・・”、と言ってくるでしょう。このとき、治療家と患者さんの間のズレが現れることになります。こうしたズレの見つけることで、何がズレを導いてしまっているのか明らかになっていくというのです。

 

しかし患者さんは自らの問題が人に理解してもらえないと、その深刻さを痛感することになります。そうしますと自殺をはかることにもなりかねません。表面化した絶望感をどのように受けとめたらいいのでしょうか。絶望には言葉の慰めは効果がありません。非言語的な心の支えが必要となってくると神田橋先生は話されています。

 

一人、一人、患者さんの気持ちに共感するだけでなく、状況や場すなわち全体に共感することも必要になってくると言います。そのことで、とるべき行動に意味が深まってくるのだといいます。

こんなおもしろい話をしてくれました。家庭の問題に対して、父親はたいへん細かく自分の家族を観察していて分析したことを話すことがあるそうです。神田橋先生は、“そこまで分かっていて、何とかせぇよ!”と言いたくなるそうです。父親の関与せざる観察こそが、父親が家庭に関与していない家庭の病理と話されていました。

 

観察だけに終わってしまっても何の意味もなさないわけです。

 

あるカウンセラーの方が登校拒否をしている子供の相談を受けて、とにかく一緒にゲームであそぶことから始めたそうです。そこでその子供と話が盛り上がるようになっていったら、その子供は学校に通い始めたと述べられ、専門家として何もしなかったのにどうして改善したのでしょうかという質問でした。

 

素人的な感性を抑制せずに患者さんに関わる、まさに答えはそこにあったわけです。

 

殻に閉じこもって自己表現ができない子に、どのようにしたら子供らしい快活さを見いだすことができるか・・

逆に、勉強がものすごくできる子といえども、ひょっとしたらその子は勉強に逃げ込んではいないのか・・

 

ある参加者の質問で、いつも自分の非力さや無力感を感じてしまうということがありました。私たちも患者さんに接してこうした想いをもつことも少なくありません。神田橋先生は、絶望の深さが深いほど、しみじみとした共感が湧いてくるものだと話されていました。たまに人を救ってあげられることもあるだろうから悲観することはないと答えて笑いを誘っていました。

 

私たちのたどる行程とは修行のような気がしてきます。

 

私たち治療家にあっても、抽象的な概念を操作して新たな考え方を見いだしながら一歩一歩進まなければならないのですが、実際の臨床にあっては個別の事例から本質を見いだしていくという、まさに修行させられているようなものです。そして患者さんもまた、日々の苦しみを体験のなかから自分を見つめ直し新たな気づきを得ていくための辛い行に励んでいるようでもあります。

 

遠方からいらした患者さんに相談を受けたことを思い出します。この方は、歯科治療で左右二本づつ歯を削られてから、まるで宇宙に投げ出されたように自分の身体がどうなっているのか分からない状況になり、左顎のあたりでストンとなにか外れたような感覚になってから全身に痛みがあらわれこれまで10年近く苦しんできたというのです。

 

はて、宇宙に投げ出された感じとは・・、どんな感じなのでしょうか。

底知れぬ暗黒の世界に投げ出されたどうしようもない孤独感と不安感なのでしょうか。

それとも、足をつけることのできる地面がなく、漂うような感覚なのでしょうか。

ここで私の専門的な立場で機能神経学的に考えてみますと、歯という身体感覚に重要な感覚器が一度にシャットダウンされたようなものであり、中枢神経でたいへんな混乱が生じたのでしょう。そのために筋肉の正常な緊張が失われ、顎関節に異常が生じたように思えます。そして本来抑制されるべき不必要な痛みの信号を抑制できないために、全身に症状があらわれてきたように思えたのです。

このとき浮かんできたことは、この患者さんに今必要なのは中心感覚ではないかという閃きでした。そこで、私自身がある時期やっていた方法を教えることにしました。それは、頭でなく、お腹にすべてスッと吸い込む感覚です。夜空の星を見るのではなく、お腹に吸い込む感覚です。見る意識があると頭に入っていきます。見るという意識をなくして、お腹に吸い込んでしまう感覚です。このことを話しましたら、とても辛いときに海を眺めていると波の音もすべて自分の中に入ってくる感覚があったと話されました。辛い体験を重ねてきた患者さんは患者さんなりに行を深めていることを実感できたのです。中心感覚を養い、正中の呼吸軸が生まれればきっと全身が統合され、宇宙に放り投げ出されたときのことも忘れ、症状も緩解してゆくように思えます。

 

患者さんはすでに自ら洞察していることがあり、それに気づきをもたらしてくれる補助線を必要としているように思えます。

すでに自らのうちにあるもの、未だ表面化してこないものを導き上げる補助線があるように思えます。


未だ意識せざるものを顕在化させ、クールな自覚で眺めることができるとき、創造的な気づきが生まれてくるように思えるのです。専門家はそれぞれが自らの工夫で補助線を見いだすことが必要なのでしょう。

 

 

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コメント
from: 芹澤 誠   2009/09/19 2:11 PM
大場先生

神田橋先生のお話の内容をそのように捉えていらっしゃったのですね。勉強になります。補助線の話しもその様なことだったのですね、イマイチ分かっていませんでしたが、このようにもう一度話を聞くと分かる気がします。

自分なんかは質問会がどの様な展開で進んでいくのだろうとそっちの方に気をとられてしまっていたので、全体をつかんで聞くことが出来ていませんでした。しかし初めて神田橋先生のお話を聞くことでき、これが対話精神療法なのか、とその真髄を垣間見れたような気がします。とても穏やかでかつ発する言葉には自信がこもっていて、また話の方向が縦横無尽に流れていき、あたかも悠々と流れる大河といっても良いのではないでしょうか(老子の雰囲気でしょうか)。

自分はまだ知識を身につけることばかり(それでもほとんど身についてませんが)に躍起になってしまい、
人との比較ばかりしてしまっています。いわゆる‘専門ばか’ですね。一日でも早く素人の心を大事にした治療者(専門家)になりたいと思います。



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